仕事が終わった。
店長は、ニコニコしながらコルネとオーヴェの前に立っていた。


3 親の顔が見たい


「いやーありがとねー。おかげで店の評判すっかり上がっちゃってー」
店長は喜んでいた。
「よければウチで働いていかない?
お嬢ちゃん
オーヴェ無視。
「うえー?でもわたしやらなきゃならないことがあるんだー」
「そこを何とか!」
説得に入る店長。
「でも日本国憲法に”児童は、これを酷使してはならない”ってあるしー」
「ここ日本じゃないから」
つっこむオーヴェ。
「お願いだよ。店の看板娘になってよ。キミがいればこの店も大繁盛なんだよ」
せがむ店長。
「きもちはうれしいんだけどね・・・わたし、おとっつぁんから大事な用事をたのまれてるの。」
「用事って?」
「あのね・・・         忘れた」

「「忘れたんかい」」

店長とオーヴェのダブルツッコミ。
「とにかくわたし、用事を済ませないとお父さんがわたしを
バックドロップなの。
だからここではたらいてるわけにもいかないんだ。ごめんね。」
「そっか・・・ムリ言っちゃってごめんね。」
店長はあきらめた。
「でも、働きたくなったらいつでもおいでよ。歓迎するから。」
「うへへへへ・・・ありがと♪」
なんやかんやで2人は店を後にした。

(バックドロップ・・・・?)
オーヴェは、まだコルネのバックドロップ発言の意味を、知るよしもなかった。


・・・


2人はその日宿屋の一室に泊まった。
「いやー、悪いなー。お前まで働かせちまって。」
オーヴェは苦笑しながらコルネに言った。
「悪いと思うなら差額分払えよ」
「辛辣だな」
2行上はコルネの言葉です。

「なぁ、お前の両親ってどんなん?」
オーヴェはふと気になって、コルネに聞いてみた。
「えー、ふつーの人だよー」
「お前の言う普通、って信じられない。」
オーヴェ酷い。
「お母さんはふつうだもん。」
「じゃあお父さんが変人なのか」
「うえぇ、決めつけるのはよくないよ。」
コルネ反発。
「まあ、おとうさんはちょっと変わってるかも。
趣味はゲートボールだし、バニラウエハースでハーモニカできるし。」
コルネは続けて言った。
「生まれたばっかりのわたしをよく谷に投げ落としてたっけ。」

「ええええええええ!?」
オーヴェ驚愕。
つーか、よく生きてたもんだコルネ。おとうさん非道い。
「お前が変人な理由が分かったような気がするよ・・・」
「ええぇ、そんな知ったかぶり。」
やっぱりコルネのお父さんはコルネと同じで果てしなく変人なんだな、とオーヴェは思った。
・・・いや、ヘタするとコルネ以上の変人なのかも知れない、とも思った。

「オーヴェの両親は?」
コルネも聞いてみた。
「俺の両親は・・・「青そうだね」「遮るなよ」
「ごめんね」
やっぱり人の話を聞かないコルネ。
「まあ・・・お前の言うとおり青いよ。家族全員。」
「じゃあ冬は大変だね。」
一家そろって寒色だもの。
「そだな。」
肯定するオーヴェ。
「どんな人なの?」
「親父は元冒険者で今はフツーの一般市民。でお袋はベテランの冒険者。
家にいることは少ないけど、かえってくるといつも度の話、してくれたよ。」
オーヴェは昔を懐かしむ様子で、遠い目をしていた。
「ここで回想シーン入ります」
「入らねえよ」
オーヴェが即座に返す。
「そういやさ、お前、親父さんに用事頼まれてたとか言ったよな。」

「あ」

オーヴェの言葉にコルネははっとした。
「忘れてたのか?」
「何たのまれてたのか忘れちゃった。ま、いっか」
そんなコルネにすかさず
「いや良くないから」
オーヴェはつっこんだ。

ふとオーヴェは母親の顔を思い出す。
冒険から戻って、疲れた顔で帰ってくる母。家にいたと思うとまたすぐ旅立ってしまう。
昼夜問わず世界中を飛び回っている彼女は、オーヴェの憧れだった。
―――お袋・・・今、何してっかな。
「お母さんは日々お父さんにジャーマンスープレックスしてるんだよ」
「してねーよ!」
そんなお母さんいたら怖え。
「わたしのおかーさんね、お父さんが私をガケから落とすたびに
強烈なジャーマンスープレックスかましてたんだよ」
「お前のお母さんかい
やっぱりコルネの母親も変わり者じゃん、とオーヴェは思う。
「どこの家庭もそんなスーパー母ちゃんじゃないんだぞ・・・
「うへへへへ」

その後2人は色々な会話をした。
家族のことや、日常のこと、そして・・・

・・・

2人が話している間、通販番組でもどうぞ。

「はい、どーも!通販番組”シャボネットながた”の時間が来て参りました!
本日はこの商品”多ポケット型バッグ!”
その名の通り非常にたくさんんのポケットがあるのです。その数、なんと50!!
これで荷物を細かーく分類できます!今ならこれに歯ブラシ5本を付けて
たったの1000G!旅のお供に、買うなら今のうちです!!」

何故歯ブラシなのか。それは永遠の謎である。
「お問い合わせは01(強制終了」

ポケットが多すぎて1つ1つの収納スペースが小さいんだと思う。

・・・

話しているうちにコルネの良心がものすごく気になってきたオーヴェ。
「・・・にしても、お前ホント変人だな。親の顔が見てみたいよ。特に父親。」
「じゃあ、見てみる?」
「え?」
こうして、コルネの家への旅が始まった。


つづく