走って走って、ひたすら走りまくって、気がついたら町に着いていた。
コルネはそれまでずっとお姫様抱っこしていた少年を落とした。
「んぎゃ!」


2 働かざる者、喰うべからず


「ってて・・・ふー、やっと逃げ切れた・・・のかな」
安堵する少年。
「びっくりしたね」
「あんなでっかい鳥、初めて見たぜ・・・」

「キョーーーーーン」
「! まだ追いかけてくる!?」
少年は剣に手をかけた。
しかし
「キュオーーーン  あー、おなかすいたなー」
「お前か!びっくりさせるなっての!」
コルネの腹音だった。
「(ぐー・・・)ホッとしたら、腹減ってきたな・・・」
少年の腹も鳴った。
「オーヴェもおなかペコペコなんだね。じゃあどこかでごはんにしようよ。」
「そうだな・・・ え?」
不自然な事に気付く。
オーヴェ?

「あのおみせがおいしそーだね。行こ、オーヴェ!」
「ちょっと待った」
少年はコルネを呼び止める。
「なぁにオーヴェ?」
コルネは少年に呼び止められ、足を止める。
「お前さ、なんで俺の名前、知ってんの?」
「だってさっき言ったじゃん」
「言ってねーよ」
さっき言いかけてコルネに遮られたもの。

コルネはオーヴェの質問に返答する。
「だって、いかにも
クラリーノって顔してるんだもん」
「いや、クラリーノってなん・・・ !お前なんで俺の苗字まで知ってるんだよ!」
少年の苗字→クラリーノ。
「うへへへへ」
「とぼけてんな!」
「ギョーン(腹音)あ、そういえばそれよりも食事!はやくいこーよ!」
ささっとコルネは料理店の方まで駆け出していってしまった。
「お、おい!待てよ!」
少年―――オーヴェ・クラリーノも、コルネの後を追いかけて走っていった。

・・・

「あー、おいしー(はぁと)やっぱりおいしいもの食べるのってしあわせだね♪」
「こんなうまい料理食べるの久しぶりだよ・・・(感涙)」
食事で頭がいっぱいで、オーヴェはさっきの疑問を忘れていた。
「複数人だと尚良し」
「お前口拭けよ」
口にミートスパゲッティのソースをたっぷりつけて話すコルネを見て、
オーヴェは、まだ子供だなと思いつつ、一言そう言った。

「お前・・・コルネっていったよな。どうして上から落ちてきたわけ?
いきなりだから、かなりビビったぞ・・・」
食事をしながら話し始めた。てかいきなりじゃなくても驚くと思う。
「あのねー、景色がよかったから塔の屋上から
スカイダイビングしたんだよ。気持ちよかったー」
パラシュート無しで。

「ああ、そういうこと・・・って屋上!?ちょ、ちょっと待てよ、屋上って!?」
「オーヴェはしらないの?屋上は塔の一番上にあるところだよ?」
コルネは屋上まで命綱無しで壁から登ってきたわけで。
「何やってんだ!そんな所から落ちたら確実に死ぬだろ!」
「屋上から落ちてきた人のしたじきになった人も死ぬと思うよ?」
「あ・・・」
コルネの正論で今更気付くオーヴェ。コルネに言われたら、おしまい。

「・・・よく最上階まで行けたな・・・・雲がかかるくらいに高いのに。」
まあ自分が目撃者だから、コルネが最上階から落ちたことは
信じないわけにはいかなかったオーヴェである。
「けっこう高かったから大変だったけど、
ロッククライミング楽しかったよ」
「壁から登ったのかよ!」
そのとおり。
「こんどオーヴェもいっしょにのぼろーよ!」
「やめとくわ。」

・・・

「はー、食った食った」
「オーヴェ、たくさん食べたねー」
「やっぱ、食えるときに食っとかないとなぁ」
2人の目の前には皿が2桁ほど積み重なっている。多い
ろなみに食べたのはほぼオーヴェ。多い
想像を絶する大食漢オーヴェ。
「お会計おねがいしまーす」
コルネはカウンターの前に立った。

「はい。合わせて2200Gになります。
え?
店のスパゲッティ一皿約70G。参考までに。
「えっとー・・・にひゃくにじゅ「2200Gになります。」
1桁違うコルネ。
「お前・・・金もってんの?」
「うへへへへ」
笑うコルネ。
「持ってねぇの!?」
「うへへへへ」
「笑ってないで答えてくれよ!」
「1000Gもってるよ。ちょっと足りないね。」
「ちょっとどころじゃねーよ!足りなさすぎだろ!」
その差額、実に1200G。

「オーヴェはいくらもってるの?」
「・・・・・200G。」
2人合わせても1200G。
「少なー!人のこと言えないじゃん!」
ツッコミがつっこまれたらおしまいだ。
「お客様?」
とりあえず言ってみる店員。

「ってか何でこんなにするんだよ!」
「当店は比較的良い材料を料理に使っております。」
比較的というのが気になる。
「お客様は30皿ほど食べられましたので・・・」
オーヴェ食べすぎ。
「・・・足りないな・・・どうする?」
自分が原因のくせに夫剣を求めるオーヴェ。
「すむませんが・・・お金が足りなさすぎですよ、お客様。」

・・・

仕方ないので、店で差額分働くことになった2人。お約束。

「あー・・・くそ、何で俺がこんな事しなけりゃならないんだ・・・」
答えは至って明確。オーヴェが食べ過ぎたからである。
「ま、こんな事言っても仕方ないか・・・」
オーヴェは料理店の店員に任された皿洗いを始めた。

そのころ

「おまたせしましたー!スシテンプーラーとゲイシャースキヤキーですー」
コルネはウエイトレスの仕事をしていた。
「いやー、かわいい女の子だねぇ」
「あんな子が料理運んできてくれるなら毎日行きたいなこの店。」
「食事代が足りなかったから働いてるみたいだよ。」
「まじすか」
ウェイトレス、なかなかの好評。
「お嬢ちゃん、カリー5皿頼むよ。」
「はい喜んでー!」
それは居酒屋。

数分後、カリー5皿を持ってくるコルネ。一人で。
大道芸のごとく両手に持った各2本の棒でカリーの皿を回しつつ、
さらに頭に皿をのっけて歩いてくる時速2km。

「おまたせしましたー。カリーですー」
と良いながらコルネは、回していたカリーを器用に次々とテーブルへ載せ、
最後に頭へ載せた皿をテーブルへ置いた。
もう、
見事としか言いようがない。
「いやー、お嬢ちゃんすごいねー」
「うへへへへ、どーも♪」
「おーい、こっちもカリー頼むよー!」

すごいウケた。

一方のオーヴェ。
「ふう・・・なんとか終わりそ
「これも頼むよ!」(ドンッ!)
洗い物が減ってきたと思ったら大量に追加される。
「まじすか」
「まじで。まだまだあるから頼むね。じゃ。」
去る店員。
途方に暮れるオーヴェ。先はまだまだ長い。
「そういえばコルネの奴、ちゃんとやってるかな・・・見に行くか。」
コルネの様子を見に行くオーヴェ。人のこと言えない。
で行ってみた。


「いつもより余分に回っておりまーす」
余計です。
「をを、すげー」
「やるなあの子。」
なんか大道芸やってる。
「何やってんだコルネえぇ!?」
「あ、オーヴェだ。みてみてー。皿回ししながら料理を運ぶんだよー」
絶妙なバランス感覚で6つも料理の載った皿を回してみせる。
ついでに頭の上にもさらに1つ回っている皿。
どうやって回ってるのか気になる。

「こうしてるとね、みんなが円形の動とか銀とか投げてくれるんだよ」
「おひねりね。」
円形の銅や銀・・・つまり硬貨。
「それにしてもすげえな、お前・・・」
「うへへへへ」
コルネはしゃべりながらも見事に皿を回し続けている。
「いやー、見事なモンだ」
「達人の域に達してるね」
客はコルネの皿回し運びを見て、円形の銅や銀・・・もといおひねりをたくさん投げてくれた。
そんなこんなで、差額以上の働きが出来たわけである。

働いたのはほとんどコルネで、オーヴェはあまり役に立っていなかったが。




つづく